ディスクレビュー『GOGO DEMPA』~Everyday is a new day~
前置き
オリコンデイリー、発売日2位でしたね。一応いつだか書いた紅白の記事を読み起こすとですね、アルバム5~10万枚のセールスはマストなんじゃ無いかって思うわけです。
ただ思い返すことが、じゃあそれだけ売ればいいのかっていうと違うなってことで。ベビメタはともかくとしても例えば和楽器バンドやback numberが大きな候補にも挙がらず、きゃりーちゃんとかももクロをおっこしたうえで、大原櫻子さんとかSuperflyが去年のタイミングで出てるのは、スケジュール云々と辞退に加えて「立ち位置」ってのも重要なんじゃないかって。
「この人はこんな人だ」「この人たちはこういう趣味や性格だ」「この人たちはこんなことがやって評価されてるんだ」みたいな、「タモさんとのトーク前に流れる紹介VTR」的情報が浸透していくことが、メジャーになっていくことだと思うんですね。AKBとかいきものがかりに紹介Vが出ないように。
一方でそこそこ有名な人でもやっぱり「誰だよお前」みたいな声があるのも事実で。「SXSWにPerfumeと[Alexandros]が!」「三代目のドームツアー動員がすごい」みたいな話をわざわざ入れるのも、「こんな知らん奴らなんでテレビ出てるの」勢に結果示し続ける必要があって。
でんぱ組.inc、昨年かなりマス向けの露出が増えた中『WWDD』を出して、これがでんぱの自己紹介的にも一枚のアルバムとしてもすごい傑作だったんですけど、僕はこの段階でかなり変化を感じていてですね。↓
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僕は一貫して書いてることがあって、それはもう「マイナスからのスタート」とか言ってらんないのではないかってことです。
例えば去年末CDJのメインステージをはじめ、アイドル村の外側で戦って結果出し始めたじゃないですか。アイドル村のなかでもフェスのヘッドライナーになったりして少しずつでんぱ組の名前はトップ層に定着し出してる。一方、これまで異様なモチベーションの高さで「いつでも逆転ホームラン打ちますよ」って意気込んできたでんぱ組にとって、こうやってみんなから愛されて「もはや異端じゃない」っていうのは結構死活問題だと思うんだ、っていう意識が出たんですけど。
無論まだトップじゃないし、一般の知名度はまだまだだから、やれることはたくさんあるし頑張んなきゃいけないんだけど、でも今のこのテンションを、ブレイクするまでいやブレイクした後も保ち続けるむずかしさ。その状態ででんぱ組はどんな手でくるかって思ってました。前置き終わり。
ここまで長くなりすぎたし、この後も長くなるんで、一言で感想まとめますね。アルバム最高!以上です!ありがとうございました。
でんぱのニューアルバムの感想 #GOGODEMPA pic.twitter.com/ow9q0pyRpx
— はっちゅ (@colorfulwhite) 2016年4月27日
リア充化していくでんぱ組
で、感想書いていこうと思います。
今回のアルバムで気になったのは、夏曲の『おつかれサマー』、ハロウィン曲の『永久ゾンビーナ』、そして『Dem Dem X'mas"』というリア充イベント(笑)を、でんぱ感出して真正面に歌ってるということ。
ハロウィンはコスプレ好きの血が騒ぐと思うんですが、夏とクリスマスは基本いつも「リア充爆発しろ」ってなりがちな(我々と近い)非リア充脳なので、例えば『でんぱの神神』の収録で海行ったり運動ロケだとえいたそ以外は「だりー」とかいう雰囲気になったりするんです。
ただまあ、特に去年とかは夏とかも満喫出来たらしく(でんぱの神神年末回より)。大きくリア充に変わることなく、あくまでもでんぱのなんかパッとしない感じを残したまんま楽しんで歌ってるんです。「こういうのも悪くない」って斜に構えた感じ
ここで、「花火最高ウェーイwww」って大幅に変貌してしまうことなくあくまでメンバーの特性やオタク度合いはそのまま(むしろ悪化?)で、環境の変化とアップデートによって上記3曲があるというのがこのアルバム最大のポイントだと思います。
オタクである彼女たちが、オタクのまま「夏祭り」とか「クリスマス」を楽しめている。これ、重要なので覚えてて下さいね。
でんぱ組の過去と今
上記三曲もそうだし『アンサンブルは手のひらに』『あした地球がこなごなになっても』もそうだし、これまでのでんぱ組らしからぬ曲が多くて、実際アルバムの評価がまあまあ割れてるっぽくてですね。
その方向転換の必要性について、インタビューで触れていました。長いですが引用します。
──現体制で3枚目のオリジナルアルバムが完成しました。さまざまなタイプの曲を通して、今のでんぱ組.incの形が浮かび上がってくる作品ですね。
相沢梨紗 はい、新しい挑戦がいっぱい詰まったアルバムになりました。ダンスのYumiko先生にも「でんぱ組.incはここから先、今までのハチャメチャ感だけではやっていけないよ」って言われて、歌の技術の向上だったり、それぞれの個性をもっと打ち出したりっていうことを考えて。
古川未鈴 シングル曲がアッパーで攻めてる分、アルバムの新曲はゆっくりした曲調のが多いんです。
夢眠ねむ うん、なんならこのタイミングでちょっと足踏みしてもよかったと思うんですよ。でんぱ組.incっぽいものをあえて出して、みんなが思うでんぱらしさに甘えててもよかったんじゃないかって。でも今回の新曲は、とにかく先を見て新しいことをしようっていう感じが強くて。その結果「これもでんぱ組.incだよ!」って言える新しい形が作れたんじゃないかな。
成瀬瑛美 「おつかれサマー!」を出したあと「あした地球がこなごなになっても」をいただいたときは、「これは同じアルバムに入るのか? どうなるんだ?」みたいな気持ちだったんですけど(笑)。結果すごくいいアルバムになったと思います。
──特に今回、アルバム曲は前向きなメッセージをじっくり聴かせるタイプの曲が多いですよね。
夢眠 そうなんです。私アルバムの曲をもらったとき、ディレクターに「こんなにいい曲ばっかり歌って大丈夫なんですか!」ってキレたことがあって(笑)。そしたら「すでにある曲がアップテンポだから」って言われて。
最上もが ぼくも同じこと言われた(笑)。
成瀬 メンバー同士でも話し合ったよね。
藤咲彩音 今回は背中を押してくれる曲が多いなあっていうのは思ったかも。
夢眠 楽屋とかで聴いて「ねえちょっと待って、数えただけでも歌詞に『未来』が10回入ってるんだけど」って。でもこうやってアルバムで聴くと、これぐらいのバランスがいいんだなっていうのがわかって、あのときはホントにすいませんでした(笑)。
一同 あははは(笑)。
ここを考えるにあたって、一端「でんぱ組.incらしさ」とやらを考え直したいなと思うんですが、大まかに3つに分けられるんじゃないかと。つまり、
- 「電波ソング」と呼ばれる、「萌え要素」と「中毒性」を併せ持った高速かつ情報量が多すぎる楽曲(でんぱれーどJAPAN、でんでんぱっしょん、ちゅるりちゅるりら他多数)
- 本人たちの「オタク」らしさ、および「根暗」「ひきこもり」「ぼっち」などオタクに付随するマイナスイメージを隠さない楽曲(バリ3共和国、およびW.W.D、ノットボッチ・・・夏など)
- 2.のような「マイナス」さを投げ捨てるわけではなく、自分なりに決着をつけた状態でポジティブに歌う「マイナスからのスタートなめんな!」的な楽曲(Future Diver、サクラあっぱれーしょん、でんぱ―りーナイトなど)
ちょっと自分語り入りますが、僕2014年のベストソング一位に「サクラあっぱれーしょん」選んでるんですけど、その前に「W.W.D」を聞いて心底がっかりしたことがあってですね。それは「あー、こんな安っぽい自分語りで話題になろうとしてるよー」っていう一点で。まーたアイドルの相対化と別路線化かよと。そんなことしなくても十分いいじゃんよと。
ただ、今思うとこの曲が存在することによってある効果があるような気がします。「W.W.D」も暗い過去があって今頑張るんだ!って曲だし、実際でんぱ組はこんなにもポジティブで楽しいグループになった。上記の2と3の両方があることで、「この娘たちの曲を聴くと本当に勇気が出る」「でんぱがあんだけ頑張ってるなら俺たちも頑張らなきゃ」っていうエモーションになれるし、実はそれが一番大きな「でんぱらしさ」なんですよ。
(8:30~)
(坂本美雨)最初は、みんなおうちにいたいリアルオタクだった子たちが、人の背中を押せるようになるまでっていうのは、すごくこう人としての成長がいっぱいあったと思うので、やっと今歌えるっていう曲もありますよねきっと。
(夢眠ねむ)ありますね。こんな人を応援する歌詞を、私たちみたいな者が歌って「伝わるのか」みたいなところから、全国ツアーさせていただいたりとかして、みんなが待ってくれてたり、私たちの歌で「元気が出た」っていう声を直接聞かせてもらったりすると、「あっ、こんなに弱気じゃあ、伝わる物も伝わらない」みたいな、気合に変わっているところです。
引き出しの中身を詰める
ちょっと1についても触れようかなあと思います。今回のアルバムでいうと「破!to the future」と「STAR☆ットしちゃうぜ 春だしね」が特にでんぱっぽい曲だって言われることが多くて、特に前者に関しては狭義の「電波ソング」としても文句なしだと思います。
一方で、この曲調が全然違う2曲が同時に「でんぱらしい」って言われる理由は、上記のようにメッセージの強さとそれを見事に具現化した曲の強さ、そしてでんぱ組のパフォーマンスの強さだと思います。
『STAR☆ット~』はいうてそんなガチャガチャしてないじゃないですか。「ハチャメチャ感」だけで表現できない、感情の起伏や濃淡だったり、静かさ、間の取り方なんかもちょっとずつ手にしたいんじゃないかなと。車谷さんが手掛けたジャズ曲『アンサンブルは手のひらに』が妙に病んでるかんじあるなとか、『きっと、きっとね。』のさわやかさ(早口な歌い方とラップを高度に使い分けててすごい好きです)とか。
猛烈に都合よく解釈すると、ライブでBPM200近い曲ばっか連打されてもしんどいじゃないですか。モッシュ激しくなったりオタ芸がガチガチになったりしたら怖くて行きずらいとか新規が入りにくいとか、アウェイな現場でとたんに盛り下がるとか。ライブ終盤のドラマチックな盛り上がりも緩急があってこそだし。
例えでいうと、「落ちこぼれの男の子がある日突然異世界に飛ばされてひめた力が覚醒して、美少女たちとハーレムしながら無双して世界を救うアニメ」ばっかだったらクソつまんないじゃないですか?
そういうときに「6つ子のギャグアニメ」とか「ほのぼのする日常系」とか「部活の熱血ストーリー」とかいろいろ挟むと全体的にも楽しめる。同じことをぜんぶ自前でやるためにやるためにいろんなエッセンスを取り入れて自分の血や肉としてるのがこのアルバムなんじゃないかと。
「宇宙戦艦ヤマト」も「マジンガ―Z」も「残酷な天使のテーゼ」も「Butter-Fly」も「恋愛サーキュレーション」も「GO!GO!MANIAC!」も「太陽曰く燃えよカオス」も「ようかい体操第一」も、バッラバラな曲調だけど全部「アニソン」ってくくっちゃうのが良いところじゃないですか。
あの日の苦悩をばねにして
いろんなこと書いてきましたが、まとめると「でんぱ組にとって過渡期でありながら最高傑作」ってことじゃないでしょうか。
この売れかかったタイミングで、これまで積んできた「でんぱらしさ」をアピールせずあえて新機軸を打ち出したのは相当賭けだったのではないかと思いますね。置きにいかなかったのは、でんぱ自身に変化する必要性があったこともありますけど、「今なら変化球でもコントロールできるし最高のパフォーマンスができる!」っていう意思表示なんだろうと思います。
あの日 つまずいた石ころも
今なら蹴っ飛ばしてホームラン
あぁ あぁ 多分 成長できてるんだ(ユメ射す明日へ)
『STAR☆ット~』のMVなんですけど、あれ架空のテレビ局ってイメージなんですが、明確に「カチンコ持ってる撮影スタッフ」の存在が出てきてるんですよ。そしてでんぱ組のMVではじめてスタッフロールが流れてる。メンバー以外の出演者を意識させる作りなんですね。
でんぱ組.inc「STAR☆ットしちゃうぜ春だしね」MV Full
「踊ってみた」とか「ニコ生」とか各自でやってきた女の子たちがディアステージに集まって、ぶつかりながらもグループとして団結して、草の根で少しずつ活動して今のでんぱがある。
つまりこのMVは、今のでんぱには本当にたくさんの協力者がついてるってことの象徴だと思うんです。そうやって文字どうり「でんぱジャック」出来るくらいなった。
どんなつらいことがあっても、こうやって光り輝ける。このアルバムはそんな「人間賛歌」です。
山ちゃんからの贈り物 pic.twitter.com/Fdj8XgU7wg
— 古川未鈴 (@FurukawaMirin) 2016年4月1日