Base Ball Bear全曲レビュー part1
なぜ今これをやるのか。「メンバー脱退」ということが現実に起きてしまった2016年、それを踏まえて「光源」というすごいアルバムを完成させた2017年ではなく、なぜ今、2018年にこれをやるのか。
それは、ついにというべきかようやくというべきか、LIVE IN LIVEという形でのツアーとして3人体制でのライブツアー開催、そして春フェスの3人体制での出演を告知されたからです。
僕たちは3人になったベボベ、というものに相対することになります。その前に、例えばライブの際にリズムギターとリードギターのニパートを前提としたような、「バンドにリードギターがいる」「4人組であるベボベ」を総括できるかなって思ったのです。
以前、個人的な視点からベボベを語った回があって、そのあたりも参考にしていただきつつ、改めて資料等参照しながら書いていきます。
ただ、150曲強とボリュームが多いので、3回に分けてお送りします。今回は「SAYONARA-NOSTALGIA」から「SHE IS BACK」まで。
『夕方ジェネレーション』
1 SAYONARA-NOSTALGIA
最初期の代表曲というか、ダンス湯浅将平も込みでライブの中心であった曲だと思うんだけど、改めてカッティングしながらラップっぽい歌詞を歌う小出さんは頭おかしいと未だにそう思うし当時からそうだったんですね。「THE CUT」をカッティングしながらラップしてたりとか。
2 つよがり少女
ボーイ ミーツ「くっそ捻くれたガール」と言えばいいのかな。
でも「君」と「俺」という組み合わせの歌って邦ロックの枠組みの中でも珍しいですよね。この曲に限った話じゃないんですが、特に近年の小出さんってめったに自分のことを「俺」と歌わないんですよね。全153曲中「俺」が26曲で「僕」が81曲です。どうでもいいわ。
3 メタモルフォーゼ真っ最中
このアルバムって、18〜19の頃に作ってるはずで、いろんな意味で青春時代と地続きなんだと思うんだけど「次に会った君は君/でもあの日と温度の違う君」って言い回しなんか見ると、ある程度大人になった今にも通じる部分だと思う。
4 微熱ボーイ
よく出てくる概念としての「DEATHとLOVE」が始めて出てきた曲になるのかな?
あと後々の「The CUT」や「HUMAN」みたいな、あえて客観的に心情を描写しまくることでむしろ人物像を立体的に見せる手法はこの時点できてると言ってもいいかなと。
5 SUNSET-KI・RE・I
2番以降の4つ打ちが入って以降なんか特に、うわー今っぽい!って思いました。今のギターロックっぽい。もちろん相応の荒っぽさが目立つけど、サビの組み合わせっぽい曲の構成とかキメの作り方が、時代超えてるなーと。
6 夕方ジェネレーション
昼とも夜ともどっちとも言えない、どっちつかずな状況をずっと歌ってきたバンドなんだなあと思います。個人的には「照明を3段階目にして/即席夕方作れたりもする」って言い回しが好きです
あと個人的にすごい思い出があって、地元にベボベが来て見に行って、ツアーのファイナルでも滅多にないダブルアンコールをしてくれたんですけどその時にこれ歌ってくれました。
7 BOY MEETS GIRL
「完全版『バンドBについて』」で再販かかった時に聴いたのですが、ここまでシャウトする小出さんあんまり聞いたことなかったので衝撃でした。
小出さんはこの曲について「解散ライブの最後の曲が出来た」って思ったらしい。
コンピレーションアルバム『HI-STYLE vol.7』
1 少女と鵺
全然世界観がわかんねえ、ってか鵺ってなんだよみたいなところから始まるんですけど。日本に伝わる伝説上の妖怪で、体の部位がいろんな動物で出来てるっている、ウルトラマンタロウのタイラント的な感じって言えば伝わりますか。
なんかこう、妖怪の類でも何でもいいから私をここからどこかへ連れ去ってくれ、という心情はわかる気がします。
シングル『YUME is VISION』
1 YUME is VISION
ド頭ベースソロ始まりの曲ってこれと「檸檬タージュ」しかないんですよね。
あと、その最初のベースライン「抱きしめたい」のそれっぽいんですけどこっちは音階上がり続けるというという。
2 君のスピード感
僕この曲すごい好きです。これも「ボーイ ミーツ くっそ捻くれたガール」ものですよね。
どうしても「SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT」のジャケットの女の子の図を想像しちゃうのは音楽性のせいですかね?
3 東京ピラミッド
『新呼吸』あたりから小出さんが片目を隠したりピラミッドに目が書かれたフリーメイソン的モチーフが多くなってて、正直僕も意味がよくわかってないんですけど。
今思うのは、「人混みかき分けて会う」ことの大変さって今こんだけスマホ浸透してたらもうないんだろうなあって。意外なところで、今だとなかなか書けなさそうな歌詞とも言えそう。
4 ドッペルゲンガー・グラデュエーション
演奏、ボーカルがどんどんテンションが高まって行くんですけど、ラストサビの方になってくると小出さんのシャウトが、もう完全に向井秀徳さんで…語尾の言い切り方とか特に…
歌ってる中身は、「生まれ変わる」とか「卒業」とか、この時期の小出さんの抱えてた"あの頃"を振り払おうと必死になってたんだなあこの頃からって解釈してます。
ロックバンド、Baconとのスプリットシングル『B Beginning!!』
2April Mirage
僕はこの時期の曲を『完全版「バンドBについて」』で知ったので、スプリット盤にこの曲も入ってたなんて知りませんでした。内容については後述します。
4 TRAGIC HEROINE
1番Aメロとサビがあって、2番があって、そのあと「それは小悪魔的な/笑顔を見せつけたら〜」って大サビがある曲の構成が、今思えばなかなかアツいですね。
アルバム『HIGH COLOR TIMES』
1 極彩色イマジネイション
カッティングと不思議なコード感の一方、極彩色って文字通り「色鮮やかで華やか」な曲で、歌詞の世界観でもサウンド面でも、実は地味に「ベボベらしさ」が色濃いと思う。
2 April Mirage
時系列的にいえば「リンダ リンダ リンダ」の収録曲だった事を考えるとずっと前になるわけですが、逸話があってこの曲の作詞のために大量のCDを借りて歌詞の分析をしたそうです。
だからある意味ベボベの歴史において「この曲以前」「この曲以後」と分かれる、のかも。
3 空飛願望
「そらとびがんぼう」って読むんだって。
個人的に、最近までサポート入ってた弓木英梨乃さんにこれ弾いてもらいたいです。もうワウペダルとかガッシャガシャにやっていただいて 笑
4 向日葵の12月
ベボベって夏のイメージがとっても強いですよね。夏に対して「冬」という概念が曲の中に出て来るのってすごく少ないってのは、北海道で過ごしてきたサカナクションと比較するとはっきりしますね。
制作期間が冬だったこともあるんですけど、次の曲も含めて「冬っぽさ」が出てるベボベって結構レアだと思う。
5 白雪の彼女
「スキー場みたいな匂い」って概念どれだけ伝わるんでしょう、雪国在住な僕としては気になります。でもサカナクションそんな歌詞書いてた記憶ないな。
6 海になりたい
後にpart2を作ることはどれだけ見越してたんでしょうか。
「バンドを組んだ女子高生」という「SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT」感はここにも。いやどっちかといえば「リンダ リンダ リンダ」を意識してかな?
7 aimai memories
「高校卒業した後に、高校生の時のメンタリティを歌ってる」ってところがこのころの構造で、「リアリティ」がありつつ「ノスタルジア」に浸りたいがための曲なんですよね。今思えばすごい矛盾を抱えてた事してたんだなと思う、そしてそれはいつか軌道修正しなきゃだわ。
8 サテライト・タウンにて
ベボベのことをちょっと深く知ってる人なら「封印された曲」であることはご存知かと思います。調べたら09年のツアーの一部公演でやった記録が出てますね。
高声が出ないってことと、あと詳しい話は今後もしますけどやっぱり「当時のリアリティ」の中で出来た曲だから、ってのはあると思う。
でも僕は、この曲をライブで見るまでは死ねないな。
9 君色の街
全体的に曲の構造とかリズムの取り方が複雑というかすごく演奏難しそうだけど、小出さんが弾いてるリズムギターの、コーラスがかった音色でカッティングしてるのがめっちゃ好きです。
10 翳ない2人
「夕方ジェネレーション」とはっきりは言ってないけど、地続きというか、これも夕方な曲ですよね。
この曲も最後に「躍動!!!!!!」ってところから大サビが入ってたり、実はAメロBメロみたいなのが各一回しかなかったり、こういうエッジの効いた曲構成いいですよね。
11 彼氏彼女の関係
こういう曲調のベボベ大好き 笑
コード進行は「BOYS MAY CRY」「不思議な夜」あたりと同じもので、ベボベの武器であると言えるし、同時にそうやって聴き比べると同じ心情で「学生の時のリアリティ」と「社会人の時のリアリティ」の違いがわかりやすく浮かぶのではないかと思います。
12 HIGH COLOR TIMES
僕の中では「日比谷ノンフィクション」で歌ってるイメージがすごく強い曲です。輪に馴染めない自分、というものって大人になっても何年たってもずっとずっと引きずってしまうものなんだと思います。
アルバム『バンドBについて』
1 CRAZY FOR YOUの季節
今あるパブリックイメージとしての「ベボベらしさ」がこれで定まったんだと思うんですよ。男女ツインボーカルとか、歌詞における「檸檬」みたいなやつとか。これプラスエレサマやドラマチックみたいな夏感ですね。
それは、「ナンバーガール」になかったものでもあるというか。
2 ラビリンスへのタイミング
僕はこの曲の存在しばらく知らなかったんですけど(2回目)
4つ打ちで早めのテンポ感で、16ビート×カッティングみたいなところとか、後のバンドシーンを数年先駆けて演奏していた、とも言えるんですけどこの曲の反応とかリアルタイムだとどうだったんですかね。
ミニアルバム『GIRL FRIEND』
1 GIRL FRIEND
今の邦ロックの価値観、今の感覚からすると、こういうテンポでこういうコード感の曲をメジャーデビューに持ってくるのは全然正気じゃない気がするんですよね 笑
「まんまナンバーガール」みたいな印象をどうしても持ってしまったちょっと前、そしてこの曲という流れを見ると、要素として大きいのは例えばXTC(ライブSE)とかレピッシュ(当時のプロデュースをしていたtatsuさん所属)ということなんですけど。
2 BLACK SEA
完成自体は「GIRL FRIEND」よりも先で、なんなら表題曲の候補であった曲、こっちの方がより「ギターロックっぽくなさ」「別物さ」が深く出ています。タイトルXTCだし。
3 CITY DANCE
近年のシティポップの流れとはあんまり関係ないはずなんですけど、当時のベボベの方法論としてこういう曲、こういう都市の描写の仕方をしていった結果である、とは言えるんですね。
これは後のアルバムでもそうなんですが、「都市の中に人物を落とし込んで物語を描写する」のと「都市にいる人をそのまま描写する」のを使い分けてる節があって、今回は前者なんですけど。
4 4D界隈
この曲大好きです。 今の感覚だとこっちが表題曲なんじゃないかという 笑
「気持ち良くて気持ち悪い」「気持ち悪くて気持ちいい」状態はしばらく続きます。
シングル『ELECTRIC SUMMER』
1 ELECTRIC SUMMER
MVに出てる六芒星の建物が「シン・ゴジラ」のラストにも出てきて笑いました。
逸話としては、関根さんのパートと小出さんのパートが当初逆だった、という話がありましたね。
2 Good bye
聞き返したら冒頭めっちゃLRが極端に振られていて、途中戻るという不思議な曲です。
湯浅さんが脱退するまで「ギター×2、ベース、ドラムでの演奏にこだわる」というのがバンド内ルールだったわけですが、それのはみ出し方としてエフェクトや録音の方法を工夫する、といつ作戦があって、例えばこの曲のキックの音は全然反響しない電子音みたいな音になってますよと。
3 SAYONARA-NOSTALGIA(LAST SUMMER Version)
既発版に比べると、こっちもより「響かない」というか、打ち込みっぽい曲の質感になっています。
だからこらのバージョンを比べると、バンドの構成要素としての「ナンバーガール」の比率がどう変わっていったのかがはっきりわかるかな。
シングル『STAND BY ME』
1 STAND BY ME
この曲すごい好きだったんですけど、改めて聞き返すと、ドラム手数多いし複雑でめんどくさい曲だったんだって思いました。
あと最初誤植かなって思ったんですけど歌詞には「STAND BY ME・I・DO」って表記されてるんですよね。テーマ的にはまんま「冥土」で「C=死」というモチーフなんですよね。この歌。
2 天空 Lonely Hearts
本来『C』の1曲目になる予定だった曲。
Aメロ→サビの →間奏の繰り返しで他の要素が無い、でも一個一個の繰り返しでドラムのパターンが微妙に変わったり間奏のリフが変わってたり、これもすごい複雑な構成ではありますね。
アルバム『C』
1 CRAZY FOR YOUの季節(Album Version)
「バンドBについて」のバージョンより洗練されたアレンジになってると思うし、今はこっちを弾いてるわけですが、たまに2番Aメロ前のリフがどんどん長くなったりしてますね。
2 GIRL FRIEND
この流れで聴くと、『C』の世界観は基本客観的というか俯瞰で見てるものでして。
『思い出が囁いてるだけで/新世界なんてないから』『絡まる赤い糸を前に/息を飲む人がいる』なんて。
3 祭りのあと
今聞き返したらめっちゃくちゃ曲のテンポ遅すぎてびっくりしました。この曲のテンポが大体BPM137くらい、ライブだとたぶんBPM170くらいで演奏してるはずなので、だいぶ違う印象です。
4 ELECTRIC SUMMER
エレサマも間違いなくベボベの代表的の1つと言えるんですけど、なんとなくその役割も「BREEEEZE GIRL」とか「PERFECT BLUE」に変わってきてるのかな。最近聞かない気がする。
5 スイミングガール
「aimai memories」「君色の街」に近い複雑な構成の曲ではあるんですけど、こっちは近年のギターロックの雰囲気があるというか、節々のキメの感じが9mmっぽい気がします(?)
6 YOU'RE MY SUNSHINEのすべて
これも、例えばインディーズ期のこれまであった曲とかとまた違う不思議な響きの曲だなあって思って聞いてるんですが、「BRACK SEA」あたりでは入ってなかった関根さんのコーラスがこの曲だとすごく効果的に聞こえるんですよね。
7 GIRL OF ARMS
じつは弾き語りバージョンが存在するんですけど、僕は聞いたことがないです。順番的には弾き語りバージョンがあってこのアレンジ版があるみたいなんですけど、正直「WHITE ROOM」とかと比較しても弾き語りのイメージがしにくいです 笑
ちなみに「ギター」が歌詞によく出てきますが、「ベース」が出てくるのは長い歴史的この曲だけです。
8 DEATH と LOVE
よく出てくる概念としての「DEATH と LOVE」。
改めてまた後で出てくるんですけど、このころは「YUME IS VISION」とかもそうだけどベボベの歌の中で誰かと別れる手段として「死別」という方法が取られているパターンが多いのかな。まだ複数パターンあるんでお楽しみに(なにがだ)
9 STAND BY ME
そういえばベボベの曲で二人称が「君」じゃなく「あなた」な印象あんまりないですよね。「あなた」と呼ぶのが12曲、そのうちここまでの曲からは5曲もあります。ちなみに「君」は96曲でした。意味はない。
10 ラストダンス
アルバムの話として、SHEとかCityとか死とか、そういう概念で形作られたストーリーはここで完全に終わってるんですよね。
個人的にベボベを聴いてて思うこと、それは小出さんの言う「ボーイミーツガール」には続きがあるんだなってこと。「ボーイはガールと出会うことで変わる、でもガールはボーイのことアウトオブ眼中」みたいな。
11 SHE IS BACK
でも、上のストーリーを終わらせない、それもこんな曲調で、というのが面白いっちゃ面白いし、多分ベボベというバンドのバランス感覚なんです。表面上のストーリーを徹底させた後、そうじゃない部分もきちんと処理して作品としての「オチ」をつける、という。
〈小括〉
多分どこまでいってもBase Ball Bearというバンドは「言葉」「文脈」「コンセプト」のバンドなんだなって思う。
コンセプトをどう作品に落とし込むかという部分がバンドを動かして行く上での大事なポイントになってるんだと思います。
そして、どうしても「青春」性は切っても切り離せないものなんだけど、この時期はまだいうて20〜22くらいなわけだから、まだ延長線上で戦えたんですよねきっと。
一方で、特にインディーズ時期の作品は、もう本当に「あぁナンバーガールだ…」となってしまうケースがすごく多かったですね。特に小出さんの歌い方だったり、4人(とくにギター)それぞれの音色だったり…まあ、ナンバーガールを手がけていたスタッフが集っていたってのもあるんですけど。
でも、この4人で学校祭でやった初ライブはスーパーカーのコピーバンドだし、その前から小出さんはトライセラとかグレイプバイン演奏していて、もっと遡れば小出さんがギター弾くきっかけはハードロックだったり中学時代バンドでOASISやってたりとか、いろんな要素が含まれてるんだけど、やっぱり要素止まりというか。
「あぁナンバーガールだぁ」とはなっても、「あぁスーパーカーだ」とはならない(個人の感想)とか、今聞いてまんまナンバーガールだとはならないあたりの話とか、どのようにベボベらしさってやつが育まれていったのか、ってのは追いかけていけたらなとは思います。
[今回のまとめ]
・ボーイ ミーツ「くっそ捻くれたガール」という概念
・そしてベボベの「ボーイミーツガール」には続きがある。
・“あの娘”との別れ、にはいくつかパターンがある。
[今後の予定]
・いつから「ナンバーガール」み以外の部分が多くなっていくのか、どのように変容するか
・このころに歌っている「青春」と、今のベボベが歌う「青春」は明らかに質感が違う。どう変わったのか?
・バンドの構造がどう変わったのか=湯浅将平はなぜ脱退したのか?